高静圧の冷却塔
高静圧型冷却塔とは?
冷却塔は、ビル空調や工場設備に不可欠な熱交換装置ですが、その設置場所は屋外の屋上や地上が一般的でした。しかし、近年「高静圧型冷却塔」が登場し、これまで難しかった屋内や地下への設置も可能になるなど、設備設計の自由度を大きく広げています。本記事では、この高静圧型冷却塔について、その仕組みからメリット、従来型との違いまで、施設担当者の方にも分かりやすく解説します。
静圧とは?冷却塔における「高静圧」の意味
まず、「静圧(せいあつ)」という言葉についてご説明します。冷却塔には、熱を帯びた冷却水を冷やすために空気を送り込むファン(送風機)が備わっています。このファンが空気を送り出す際に生じる力が「圧力」ですが、これは大きく「動圧」と「静圧」に分けられます。
- 動圧:空気の流れそのものが持つ運動エネルギーによる圧力です。風速が速いほど高くなります。
- 静圧:空気を押し出す力、言い換えれば、空気の通り道(ダクトなど)で発生する抵抗に逆らって空気を進ませようとする圧力です。
冷却塔のファンが生み出す全圧(動圧+静圧)のうち、特に重要なのが静圧です。冷却塔から出た空気を、例えば長いダクトを通して建物の外まで排気する場合、ダクト内の摩擦や曲がり角(エルボ)などで空気の流れが妨げられます。この妨げ、つまり「圧力損失」を乗り越えて計画通りの風量を確保するためには、ファンに十分な静圧が求められます。
特に、冷却塔の機器外部で発生する圧力損失に打ち勝つために必要な静圧を「機外静圧」と呼びます。従来の冷却塔は、屋外に設置され、ファンから排出された空気がすぐに大気へ拡散されることを前提としていました。そのため、機外静圧はほぼゼロ(0Pa)で設計されており、ファンもそれに合わせて選定されています。このような冷却塔に長いダクトを接続しようとすると、たちまち風量が不足し、冷却能力が低下してしまうのです。
これに対して「高静圧型冷却塔」とは、文字通り高い静圧を発生させることができるファンと構造を備えた冷却塔を指します。従来型が機外静圧0Paを想定しているのに対し、高静圧型は機種によって100~300パスカル(Pa)、単位を変えると約10~30ミリメートルアクア(mmAq)といった大きな機外静圧に対応できます。これは、冷却塔の先に長いダクトや消音器などが接続されても、それらの抵抗に負けずに必要な風量を送り届けられる「余裕度」が大きいことを意味します。
高静圧が必要になる設置環境の特徴
では、どのような場合にこの「高静圧」という能力が求められるのでしょうか。代表的な設置環境をいくつか見ていきましょう。
屋内設置・地下設置が求められるケース
冷却塔を建物の屋上や地上ではなく、機械室などの屋内や地下ピットに設置したい、というニーズは少なくありません。建物のデザイン性を重視する場合、景観規制がある場合、あるいは騒音対策として冷却塔を外部から見えない場所、音を遮断しやすい場所に置きたいといった理由が挙げられます。
屋内や地下に冷却塔を設置する場合、新鮮な外気を取り入れ、熱交換後の湿った空気を建物の外部へ排出するために、吸気用と排気用のダクトを設置する必要があります。このダクトが長くなったり、複雑に曲がりくねったりすると、空気抵抗(圧力損失)がどんどん大きくなります。このような状況で頼りになるのが、高静圧型冷却塔です。そのパワフルな静圧によって、長いダクトを経由しても安定した風量を確保し、冷却性能を維持します。
長距離ダクト・複雑なダクト経路が必要となるケース
上記の屋内・地下設置と深く関連しますが、冷却塔本体と外気との接続に長いダクトが必要となるケース全般で高静圧型は有効です。例えば、地下の機械室から地上数十メートル上にあるガラリ(ルーバー)までダクトで排気する場合や、途中に高性能なフィルターや消音器(サイレンサー)を挿入する場合などです。これらの機器も空気の流れに対する抵抗となるため、圧力損失を考慮しなければなりません。
従来の冷却塔では、このような条件下では風量が著しく低下し、冷却水が十分に冷えないといった事態を招きかねません。高静圧型冷却塔であれば、こうした大きな圧力損失にも対応できるため、設計通りの冷却能力を発揮しやすくなります。
高静圧型冷却塔のメリット|従来型とどう違う?
高静圧型冷却塔の導入は、施設管理者や設計者にとって多くのメリットをもたらします。従来型の冷却塔と比較しながら、その主な利点を見ていきましょう。
設置自由度の高さ:地下・室内でも対応可能
高静圧型冷却塔がもたらす最大のメリットは、設置場所の選択肢が格段に広がることです。 前述の通り、高い静圧性能によってダクト接続が実用的になるため、これまで屋外設置が当たり前だった冷却塔を、建物の内部空間(機械室、地下階など)に配置するレイアウトが可能になります。
これにより、以下のような効果が期待できます。
- 屋上スペースの有効活用:屋上緑化や太陽光パネル設置など、他の用途に屋上スペースを割り当てたい場合に有効です。
- 景観への配慮:特にデザイン性が重視されるホテルや商業施設、オフィスビルなどで、冷却塔を外部に露出させずに済むため、建物の美観を損ないません。
- 近接配置による効率化:冷凍機(チラー)などの熱源機器の近くに冷却塔を設置することで、配管長を短縮し、ポンプの圧送動力を削減できる可能性があります。
- 高層ビルでの分散配置:超高層ビルにおいて、各階やゾーンごとに冷却塔を分散して設置する設計も、高静圧型であればダクトによる排気が容易なため、採用しやすくなります。これにより、冷却水配管の揚程を低減し、システム全体の効率化に貢献します。
従来は「冷却塔は屋外」という固定観念がありましたが、高静圧型はその制約を取り払い、より柔軟な設備計画を実現する切り札となります。
長距離ダクトでも冷却性能が落ちない
高静圧型冷却塔は、ファンが強力な静圧を生み出すため、長いダクトや複数の曲がり、あるいは消音器などを接続した場合でも、風量の低下を抑えることができます。 一般的に、高静圧型冷却塔には「遠心ファン(シロッコファンなど)」が採用されることが多いです。このタイプのファンは、空気を吸い込んで羽根車で遠心力を利用して圧力を高め、一方向に強く押し出す特性があり、高い静圧を得意とします。
一方、従来型の冷却塔に多く用いられる「軸流ファン(プロペラファン)」は、大風量を効率よく送風できる反面、静圧性能はそれほど高くありません。そのため、ダクトを接続すると抵抗に負けてしまい、設計通りの風量を確保できず、結果として冷却能力が著しく低下してしまうのです。
メーカーの資料によれば、汎用的な冷却塔が機外静圧ほぼ0 Pa(実質的にダクト接続不可)であるのに対し、高静圧型は最大で約300 Pa(約30 mmAq)もの外部静圧に対応できる機種もあります。これは、例えば10メートルを超えるような長いダクトや、騒音対策のための大型消音器を接続しても、冷却塔が本来持つべき熱交換性能をしっかりと維持できることを意味します。 この特性により、設置場所の制約から複雑なダクト経路を取らざるを得ない場合でも、冷却性能を犠牲にすることなく対応できるのです。
騒音・振動対策にも優れる静音設計
冷却塔の設置において、騒音と振動は常に大きな課題となります。特に住宅地に近い施設や、静粛性が求められる建物(ホテル、病院、研究施設など)では、極めて重要な検討項目です。高静圧型冷却塔は、この騒音・振動対策の面でも優れた特徴を持つ製品が多く開発されています。
- 低騒音ファンの採用:高静圧型に用いられる遠心ファン(シロッコファン)は、一般的に軸流ファンと比較して運転音が低い傾向にあります。製品によっては、さらに低騒音化を追求したファンが搭載されています。
- 構造的な工夫:冷却塔内部で冷却水が散水されるエリアをケーシングで囲い込む構造にすることで、水滴の落下音やファンの気流音が外部に漏れにくいように配慮された製品もあります。
- 消音器(サイレンサー)との相性:高い静圧性能を持つため、吸気口や排気口に消音器を接続しても、その圧力損失を十分にカバーできます。これにより、より積極的な騒音低減策を講じても、冷却能力への影響を抑えることが可能です。実際に、高静圧型冷却塔を地下に設置し、厳しい騒音基準をクリアした事例も報告されています。
- 振動対策の充実:ファンやモーターといった振動源となる機器は、防振ゴムやスプリング式の防振架台に設置されるなど、建物構造への振動伝播を抑えるための工夫が施されています。大風量・高静圧のファンは振動も大きくなりがちですが、高静圧型冷却塔では、この点も考慮された設計がなされています。
これらの特徴により、高静圧型冷却塔は、音環境に敏感な場所への設置や、屋内設置時の静粛性確保において、非常に有効な選択肢となります。
まとめ|高静圧冷却塔で施設設備の柔軟性を最大化しよう
高静圧型冷却塔は、その名の通り高い静圧性能を武器に、従来の冷却塔が抱えていた設置場所の制約を大きく取り払う画期的な製品です。
- 静圧:ファンが空気の通り道の抵抗に打ち勝つ力。
- 高静圧型冷却塔:ダクトなどの大きな抵抗があっても必要な風量を確保できる。
メリット
- 屋内・地下など、設置場所の自由度が飛躍的に向上。
- 長いダクトを接続しても、冷却性能が低下しにくい。
- 静音性に優れた設計で、騒音・振動対策にも貢献。
「景観上の理由で屋上に冷却塔を置きたくない」「騒音問題で冷却塔の設置場所に苦慮している」「限られたスペースを有効活用したい」といった課題を抱える施設にとって、高静圧型冷却塔はまさに救世主となり得る存在です。
もちろん、導入コストや設置スペースの確保など、検討すべき点はありますが、それを超えるメリットも期待できるでしょう。メーカー各社からも、様々な特徴を持つ高静圧型冷却塔が提供されていますので、施設の状況やニーズに合わせて最適な機種を選定することが重要です。
高静圧型冷却塔という新しい選択肢を視野に入れることで、これまで諦めていた設備計画が実現可能になるかもしれません。施設の柔軟性を最大限に高め、より快適で効率的な環境づくりを目指しましょう。



